熊本地震から次々と復活し、2021年春には全館オープンを果たす「地獄温泉 青風荘.」に、温泉ソムリエ・今村がお邪魔しました。前進し続ける3兄弟と、その原動力となる奇跡の湯。人々を魅了するワケがたくさんありました。
ライジングエナジー!
地震、土砂災害にも負けない奇跡の湯
幼い頃、祖父母に連れられて訪れた地獄温泉。にごった湯船には、ボコボコと湯が湧き、子どもには結構な熱さ。幼心に、「ここは地獄だ」と怯えていた記憶があります…。時が過ぎ、大人になった私は、あちちっと言いながらつかる湯加減、体をすっかり隠してくれるにごり湯、湯上りにいつまでも余韻を感じる香りに、気づけば地獄温泉の虜に。県外から訪れた友人を連れて行くのは、自分のでもないのに自慢したくなる温泉だったから。「熊本の温泉、すごいでしょう」といった感じで。
それが、2016年の4月に一変。熊本地震で休業を余儀なくされ、さらにその2ヶ月後、地震で緩んだ大地に大雨が降り、崩れた土砂が地獄温泉を襲ったのです。「壊滅的」――この言葉が当てはまってしまうほどの大きな被害。そんな絶望の中、河津三兄弟は、土砂に埋まってしまった敷地の一角に奇跡を見つけます。それが、「すずめの湯」です。
「すずめの湯」は、土砂に埋まることなくボコボコと湧き続けていたのです。「この温泉を守り続ければ、地獄温泉の再生は必ず成し遂げられる」。こうして、復活劇がはじまったのです。
河津3兄弟が果たす復活劇は
災害に苦しむ人々の希望に!
左/社長・河津誠さん、中央/副社長・河津謙二さん、右/料理長・河津進さん
温泉は大地から湧き出る、自然の恵み。体が温まることで得られる作用はもちろんですが、肌や心など、その恩恵はさまざま。これまで、温泉ソムリエとして、さまざまなお湯につからせていただいた中でも、「地獄温泉 青風荘.」は、そのエネルギーが強いんです!
「200年以上前にこんな山奥に湯治場を開くのは、簡単なことではありません。今回、復興を続ける中で、それを強く感じました。そして気づいたんです。『ライジングエナジー』だと。この「すずめの湯」は、苦労してでも入りたいと思わせる力があるんです」と河津誠さん。
2019年4月16日に復活した「すずめの湯」。コンクリート打ちっぱなしの脱衣所に、以前の趣のまま残る内湯・混浴露天風呂、さらに、新たに冷鉱泉も加わります。このタイミングから始まったのが、湯浴み着を着ての入浴スタイルです。
「これまで、体に傷を負ってしまった人やジェンダーレスの人が、温泉に入ることを躊躇していたと知り、湯浴み着を採用することに。湯が湧くところでは、みんな平等です」と河津誠さん。
宿に残る入湯の「掟」。現代風に訳すと「湯は皆のもの 自然からの贈り物 我が物顔で入るべからず 皆で有難く頂くべし」といった心得が書かれています。
2019年秋には男女別の大浴場「元の湯」「たまごの湯」が再開し、2020年春にはレストランがオープン。そして、9月に離れがオープンし、宿泊が再開されました。2021年春には、いよいよ湯治も。「食事処だった曲水庵はゲストハウスになり、天上まで本を並べ、キッチン付きの湯治個室やリッチなお部屋も用意して、お好きなスタイルでお泊りいただけます」。そう話す河津誠さんの目はキラキラ。地震から5年、とうとう迎える全館再開に、わくわくが止まりません。
「地獄温泉がしっかりと経営ができるようにすることで、自然災害から復活した事例として、大きな被害を受けてしまった各地の施設のお役に立てたらと考えています」。そう、この復活への物語は、災害の多い日本にとっても大きな希望なのです。
煙突から煙が上がったら
「そろそろご飯だよ」の合図?
レストランでは、旬を大切にした地のものを使い、老舗料亭で腕を磨いた料理長の進さんが見目麗しい料理に昇華させます。厨房で腕を振るう進さん。かまどに薪をくべご飯を炊き、カウンターで炭焼き料理を提供する誠さん、サービスは謙二さんと、3兄弟のチームワークは抜群です。
炊きたてのご飯の香りに包まれ、一気に空腹感におそわれます。
ジビエの入っただご汁など、以前からのメニューも用意。
自分自身の底力も湧き出るような、
ここは温泉パワースポット!
度重なる災害にも負けず湧き続ける「すずめの湯」は、湯船の底からお湯が湧く「足元湧出」の温泉です。源泉そのままの湯なのに、ちょうど良い湯加減。湯浴み着を着て入浴するため、老若男女、お客さん同士のコミュニケーションも楽しみの一つ。冷鉱泉と交互で入ったり、泉質の違う大浴場とのはしごもおすすめです。四季折々で表情の変わる木々と空の景色を眺めていたら、あっという間に3時間経っていた…ということも。「そんなに長湯はできない」という人も、訪れれば納得するはず。「地獄湯治」で、心と体に休暇をあげてください。
地獄温泉 青風荘.
[入浴料]
すずめの湯のみ/中学生以上1,200円、小学生以上600円(中学生以上は貸しバスタオル付き)
たまごの湯・元の湯のみ/中学生以上800円、小学生以上400円
どちらも入浴/中学生以上1,600円、小学生以上800円(中学生以上は貸しバスタオル付き)
住所 阿蘇郡南阿蘇村河陽2327
営業時間 入浴時間10:00〜17:00(最終受付16:00)
休 火曜
駐車場台数 30台