自然に親しむアウトドア雑誌『ランドネ』。編集部・安仁屋さんが、喜界島・与論島の奄美トレイルを歩いたエッセイをお届けします。
ランドネ編集部×安仁屋円香×AMAMI TRAIL
空港に到着した飛行機を降りると、通りすぎたはずの夏へと季節がさかのぼり、温かく湿った空気が肌に触れた。ここは鹿児島県の奄美群島のひとつ、喜界島。周囲約50kmの島のほとんどが、サンゴを起源とする石灰岩で、いまもなお年間平均2㎜のスピードで隆起をしているという、世界でも珍しく貴重な島だ。「イルカやサメ、ウダイなんかウジャウジャいるよ。ウミガメやクジラなんかもね」そんな島で暮らす人の出迎えの言葉に高揚した。
旅の目的は、昨年1月に全線開通した「世界自然遺産奄美トレイル」の喜界島エリアと与論島エリアに選定されたコースの魅力を、バックパックを背負い探し歩くこと。すぐ目に飛び込んできたのは、透明度が高く澄んだ青色をした海。低いところに浮かぶ白い雲、南の島らしいカラフルな花と緑の濃い植物。それらがつくる風景と、いつもと変わらない自分のトレッキングスタイルとの見慣れなさがとても新鮮で、少し照れくさい。
トレイルを歩きながら、いたるところで目にするサトウキビ畑は、強風や干ばつに強く、台風の多い南の島では欠かせない作物だ。さらにサトウキビのトンネルのなかは、島の子どもたちの隠れた遊び場でもあることを知り、この島での暮らしに思いをめぐらせた。
喜界島には川がない。代わりに、サンゴの台地から水が湧き、海へと注いでいるという。そして人々が暮らしを営むために欠かせない湧き水のある場所に、集落がある。サンゴの恵みがおいしい水をつくり、人の暮らしと自然を潤しているのだ。
喜界空港から奄美大島を経由して向かった、鹿児島県最南端の与論島。奄美と琉球が混ざり合った独特の文化をもつ、周囲23.7㎞の小さな島であり、この島もまた隆起したサンゴ礁により形成されている。
この島には山がない。けれど、見たこともないような青色をした美しい海を眺められるビーチは60以上もある。「アカショウビンが鳴くと梅雨、サシバが鳴くと冬が来る。リュウキュウアオバズクもいるね。熱帯と亜熱帯が交わる場所だから、冬にもたくさん花が咲くよ」と、島の人が教えてくれた。
奄美トレイルは、自然と暮らしのつながりを教えてくれる場所でもある。そして、歩いている道は、間違いなくサンゴの台地の上。足元には約10万年前の島の歴史が詰まっていることを、一歩一歩、坂道を上るたびに実感する。なんてロマンだ!
「自然の大切さ」なんて、何度も耳にしている言葉の意味は、歩いて、目で見て、自ら感じたもののなかにあり、次のステップへと進むためのきっかけを与えてくれもする。トレイルを歩きながら、何度「きれい」という言葉とともに、そんなことを考えただろう。
島旅の余韻が、いつまでも体のなかに残る。奄美トレイルをもっと歩きたい。それぞれの島にある守り続けるべき景色と、変わり続ける景色を、歩いて確かめるためにも。
安仁屋円香・あにやまどか
ランドネ編集部員。自分へのご褒美をたっぷりと用意しながら、山と町を繋いで楽しむハイキングスタイルが定番。バックパックひとつで行く島旅も、定期的に計画。登山歴は15年
自然や旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方を探す人を応援するメディア。雑誌『ランドネ』は奇数月23日に発売